街を歩いていると、美容室ってどこにでもありますよね。駅前はもちろん、住宅街の中にもポツポツとあって、「こんなに需要あるの?」と思ったことはありませんか?
実際に調べてみると、美容室の数はコンビニの約5倍近くあることが分かりました。
今回はこの「美容室の多さ」について、なぜこんなに増え続けているのか、それでいて潰れる店も多いのはなぜか、という視点で調べた内容をまとめます。
自分は現役の美容師として働いていますが、現場にいると「こんなに同業者が多い業界で、お店はどうやって生き残っているんだろう」と気になることがよくあります。今回はその疑問を、数字を見ながら確認していきます。
目次
美容室の数は約27万軒、コンビニの5倍近い

厚生労働省の調査によると、2024年3月末時点の美容所数は27万4070件でした。
前年度から4181件増えていて、過去最多の数字です。一方のコンビニは、業界団体の調査で全国に約5万5800店ほど。単純に割ってみると、美容室はコンビニの約4.9倍あることになります。
コンビニって正直、どの街にもかなりの数があるイメージですよね。それより5倍近く多いというのは、数字で見るとあらためてすごい数だなと感じます。
ちなみに理容室も別にあって、こちらは11万0297件。理容室と美容室を合わせると、全国で37万軒を超える計算になります。
参照元:
理美容ニュース
なぜこんなに増え続けているのか
美容所の数は年々増えていて、令和5年度中の新規開設数は1万4304件でした。
1万4304件を365日で割ると、1日あたり約39.2件のペースで新しい美容室が開業している計算になります。
つまり、日本のどこかで毎日40軒近く新しい美容室がオープンしているということです。
これは令和2年度以降ずっと1万4千件台で続いている数字で、開業意欲自体は落ちていないことが分かります。
理由としては、美容師免許を取れば自分の腕一本で開業できるという業界の特性が大きいと思います。飲食店のように厨房設備に大きな投資が必要なわけでもなく、最近では「一人美容室」のように、小さなテナントを借りてセット面とシャンプー台だけ置けば始められるケースも増えています。
美容師数も増え続けていて、2024年3月末時点で57万9768人と過去最多を記録しています。前年から7958人増えていて、こちらも右肩上がりです。
なぜ美容師は独立したがるのか

美容室の数が増え続けている背景には、「美容師はいつか独立するもの」という業界特有のキャリア観も関係していると思います。
美容師は経験を積んでも固定給が中心の店が多く、技術や指名の数がそのまま自分の収入に直結しにくいという構造があります。
独立すれば、指名や売上がダイレクトに自分の収入になるので、頑張った分だけ報われる感覚を求めて独立を選ぶ人は少なくありません。
例えば月に200万円売り上げる美容師だったとしても、店舗費、アシスタントの給料、材料費としてお店にほとんど入るので、4分の1給料として入ればいい方です。
一般的には、スタイリスト歴10年前後、年齢でいうと30歳前後が独立のひとつの目安。
アシスタント時代に基礎を学び、スタイリストとして技術と指名客を積み上げ、店長やマネージャーとしてお店の運営にも関わるようになる頃に「自分の店ならもっとできるはず」という発想が芽生えてくる、というのは周りの先輩や同僚を見ていても納得できる流れです。
長年担当してきたお客様をそのまま自分のお店に迎えられるのも、独立の大きな動機のひとつです。
技術職である以上、「自分の名前で勝負したい」という気持ちが業界の文化として根付いているからこそ、新規開業のペースが落ちないんだろうなと感じます。
勤めるお店によっては固定客の流出を防ぐために、お客様を持っていくのを禁止。あるいは半径何Km以内は出店禁止というお店もあります。
美容室が集中するエリアあるある

増え続ける美容室ですが、実は出店場所には偏りがあります。代表的なのが表参道・原宿エリアです。
地元メディアが行政に問い合わせて調べたデータによると、神宮前・北青山・南青山の3エリアだけで届出済み美容所が合わせて1948件もあり、これは港区全体の総件数1788件を上回る数字です。
エリアの面積はわずか8.85%ほどしかないにもかかわらず、渋谷区・港区全体の美容所のうち約4割がこの3エリアに集中しているという、ちょっと信じがたい密度になっています。
我々美容師業界でも「表参道青山の美容師はなんかスゴイ」という勝手なイメージがあります。
SNSでもあえて「表参道美容師」という二つ名で活動している美容師がたくさんいます。
参照元:
OMOHARAREAL
ちなみに美容室のイメージが強い代官山エリアと比べてみても、代官山の美容所は189件にとどまるそうで、表参道・原宿エリアの突出ぶりがよく分かります。
1970年代に「クリエイターの街」として発展した表参道には、おしゃれな人をターゲットにした美容室が次々とオープンし、1990年代後半のカリスマ美容師ブームでさらに知名度が高まったという歴史的な背景もあるようです。
今ある美容室の密集も、決して偶然ではなく、街の成り立ちと美容業界の歴史が積み重なった結果といえそうです。
増えている分、廃業も同じくらい多い

ここで気になるのが、増えている数の裏でどれくらい廃業しているのかという点です。
新規開設数から推計した廃店数を見てみると、令和5年度は美容所で1万0123件でした。
前年度から855件増えていて、この10年は1万件前後の高水準で推移しています。つまり毎年1万4000件くらい新しくできて、1万件くらい潰れているということです。
差し引きで数は増え続けていますが、入れ替わりの激しさはかなりのものだと分かります。
帝国データバンクの調査ではさらに具体的な数字が出ていて、2025年に発生した美容室の倒産は235件で、前年の215件を上回って2年連続で過去最多を更新しました。
倒産した美容室のうち9割超が資本金1000万円未満の小規模経営で、業歴を見ても「設立10年未満」が49.0%を占めています。これは年間100件を超える水準が常態化した2008年以降で最も高い割合だそうです。
参照元:
帝国データバンク
実際のところ一人美容室だと運営が安定しにくいのは事実です。
例えば風邪で体調を崩して一週間休んだら、1週間分の売り上げはゼロ円。
でも家賃は発生しますし、手や足のケガなんて起きたら死活問題です。
前のお店のお客さんも美容業界では「半分ついてきてくれたらいい方」と言われます。
夢を追って「いざ!!」でもつり橋を渡るような毎日では長く続かなくなってしまうのです。
「短命化」が進んでいる理由
設立から倒産までの期間も、2025年は平均13.0年と前年の14.1年より短くなっていて、2020年以降で最短だったそうです。
物価高や人手不足が同時に直撃している今の経営環境の厳しさは、現場にいても何となく伝わってきます。
特に印象的だったのが、人手不足を理由とした倒産が11件あり、これは2013年以降で最多だったという点です。
美容室の数が増えている分、スタイリストの取り合いも激しくなっています。
SNSのフォロワーが多い人気スタイリストや、福利厚生が充実した大手チェーンには人が集まりやすい一方で、中小サロンは採用が難しくなっているという、業界内での二極化が進んでいるようです。
TiktokやInstagramなどでも最近はショート動画を使った美容室求人が増えています。
今までは職業案内所に募集を出したりなどが一般的でしたが求人の形も大きく変わってきていますね。
値上げしたくても、できない事情もある

経営を圧迫している要因は人手不足だけではありません。シャンプーやカラー剤などの美容材料、電気代、テナント料、人件費といった運営コストが軒並み上がっているという話もありました。
私が働いている美容室の地域でも水道代が跳ね上がり、美容室にとっては死活問題クラスです。
それなら値上げすればいいじゃないかと思うところですが、物価高で節約志向が強まっている消費者側は、値上げに対して敏感になっています。
集客のための割引キャンペーンを打つと、せっかく上げた価格が実質的に元に戻ってしまうケースもあるそうで、「人手不足」「コスト高」「値上げ難」の三重苦という言葉が使われていました。
ヘアカットだけ値上げして、カラーとのセット施術は据え置きにすることで客単価を上げる戦略や、エリアごとに細かく値上げ幅を調整して受け入れてもらいやすくする工夫をしているサロンもあるとのことです。
お客様の反応を間近で見ていると、値上げのタイミングや伝え方ひとつで印象が大きく変わるので、これは多くの経営者が頭を悩ませているところなんだろうなと感じます。
数が多いことは、利用者にとってはチャンスでもある
ここまで見てきたように、美容室の数がコンビニの5倍近くあるという事実の裏には、開業のしやすさと独立志向というキャリア観、そしてそれと同じくらいの厳しい競争があります。
経営側からすると正直しんどい話ばかりですが、利用者側から見れば選択肢が多いということでもあります。
家の近くに何軒もある中から、自分に合うスタイリストや得意なメニューを持つお店を選べるのは、この業界の数の多さがあってこそです。
表参道や原宿のような激戦区に足を運ばなくても、近所で十分にいいお店と出会える時代なのかもしれません。
自分自身、現場で働く美容師として倒産件数や短命化のデータを見ると気が引き締まる部分もありますが、お客様に「また来たい」と思ってもらえるかどうかは、結局は日々の接客や技術の積み重ねなんだろうなと、あらためて感じました。
