現場にいると、当たり前すぎてあまり疑問に思わないことってありますよね。美容室の定休日もそのひとつで、自分の店も、近所の店も、だいたい月曜か火曜。
お客様から「なんで美容室って月曜休みが多いんですか」と聞かれたときに、正直「昔からの慣習ですね」としか答えられなかったことがあります。せっかくなので、ちゃんと調べてみました。
結論、戦争中の「電気の制限」がきっかけだった
調べてみると、由来は第二次世界大戦の頃までさかのぼります。当時の日本は電力不足が深刻で、地域ごとに電気の供給を止める「休電日」という仕組みが設けられていました。
問題は、当時のパーマが今とはまったく違う方法だったことです。
「電髪(でんぱつ)」と呼ばれていて、髪に電極を何十本も取り付けて、電気の熱でウェーブを作るというもの。今のデジタルパーマに近いイメージですが、とにかく電気がないと施術そのものができません。

参照:Facebook
そのため、休電日には美容室も店を開けられず、休むしかなかったというのが由来のようです。
ちなみにこの電髪、髪を巻いたカーラーから電熱コードが20本から30本も伸びていて、頭上の加熱装置につながっているという、今考えるとかなり本格的な機械でした。ウェーブが定着するまで2〜3時間はその状態のまま動けなかったそうで、火傷しないよう加熱器に警報ライトまで付いていたというので、なかなか命がけのオシャレです。
戦後の混乱期は多くの地域で休電日が月曜だったため、理美容業界では月曜を休業日にする流れが定着し、休電日という制度がなくなったあとも名残として月曜休みの店が多く残っている、という記録が見つかりました。
参照元:
Wikipedia「輪番停電」
参照元:
CBC MAGAZINE「日本に初上陸した『パーマ』が歩んだ驚きの美容史」
ちなみに関東では火曜休みの店が目立ちますが、これは「関東の休電日が火曜だったから」という説が業界内でよく語られています。
地域ごとに休電日の曜日が違っていたのは事実なので、十分ありえる話だと思います。
電気の制限がなくなった後も、休みが変わらなかった理由

ここで気になるのが「休電日がなくなったなら、定休日も自由に変えればよかったのでは」という点です。実はここにもうひとつ理由があります。
戦後、美容室や理容室のような業種は、値下げ競争やお店の増えすぎで、経営が苦しくなりやすいことが問題になっていました。
そこで国は「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律(生衛法)」という法律を作りました。
この法律のポイントはシンプルで、「業界の組合が、料金や営業時間、定休日などのルールを決めて、加盟しているお店に守ってもらってもいいですよ」というものです。
つまり、組合が「みんなで月曜(または火曜)を定休日にしましょう」と決めれば、その組合に入っているお店はそれに従う、という仕組みが法律で認められていたわけです。
参照元:
厚生労働省「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律概要」
つまり、休電日というきっかけで生まれた「月曜・火曜休み」という習慣が、その後は組合のルールという形で業界全体に定着していった、という二段構えの経緯があったわけです。
現場の感覚としても、これは納得できる部分があります。
もし自分の店だけ他の同業者が休んでいる日に営業していたら、お客様を根こそぎ持っていけてしまいますし、逆に自分の店だけ営業日を増やせば、他店との体力勝負になってしまいます。
業界全体で足並みを揃えることで、過度な競争を避けられていた面は大きかったのだと思います。
今は自由なのに、なぜ変える店が少ないのか

現在は、こうした業界のルールに強制力はなく、定休日は各店が自由に決められます。それでも月曜・火曜休みの店がまだまだ多いのは、単純に「変える理由がない」からだと感じています。
お客様の間でも「美容室は月曜か火曜が休み」というイメージがすでに広まっているので、あえて休みの日をずらすと「あれ、今日休みなの」と驚かれることもあります。(ズレたお盆休みとか)
もうひとつ理由があります。美容業界の講習会や勉強会は、多くの店が休みになる月曜・火曜に開かれることが多いんです。
新しい技術を学んだり、モデルの撮影会に参加したりするには、この曜日に休みがあったほうが都合がいいんですよね。
自分自身、月曜休みだった頃はそのまま講習会に流れることが多かったので、これは実感としてよくわかります。違うお店でもまとめて講習できますからね。
休みの日なのに仕事みたいだと思うかもしれませんが、みんなが同じ曜日に休むからこそ、全国の美容師が同じ日に集まって学び合えるという面もあるんです。
最近は少しずつ変わってきている
とはいえ、最近は水曜休みや、シフト制で個人ごとに休みを調整する店も増えてきた印象があります。
土日にしか来店できないお客様が多い一方で、スタッフの働きやすさやワークライフバランスを重視する流れもあり、定休日を見直す動きが業界内で出てきているのは間違いなさそうです。
もうひとつの変化として、そもそも理美容組合に加盟しないお店の存在があります。
1000円カットのようなチェーン店は、組合を通じて業界全体で定休日を揃えるという昔ながらの慣習に縛られていません。
実際、あるヘアカット専門チェーンは年始をのぞいてほぼ年中無休で営業していて、これは「営業時間や定休日、料金が組合を通じて業界でほぼ統一されていた」という、それまでの理容業界の常識を崩した存在として紹介されています。
こうしたお店が増えてきたことで、「美容室は月曜か火曜が休み」という当たり前が、少しずつ当たり前ではなくなりつつあるのかもしれません。
戦争中の電力事情から始まった慣習が、80年近く経った今でも街の美容室の看板に残っているというのは、あらためて考えると不思議な話です。次に美容室の定休日の張り紙を見かけたときは、そんな歴史の積み重ねを思い出してもらえたらうれしいです。




