先日、40代くらいの男性のお客様から「ついでに髭も剃ってもらえたりします?」と聞かれました。
カットしながら何気なく聞かれたので、「すみません、美容師って法律上カミソリで顔剃り・髭剃りができないんですよ」とお答えすると、かなり驚かれていました。
理容室でよくある「顔剃りサービス」、実は美容室では原則できません。今回はその理由を、法律の話も交えながらできるだけわかりやすくまとめてみます。
目次
結論:美容師はカミソリを使った顔剃りが法律で禁止されている

理容師と美容師は、どちらも国家資格を持つ「髪のプロ」です。でも実は、法律の上では全く別のものとして扱われています。
理容師は理容師法、美容師は美容師法という、別々の法律にもとづいた資格です。
専門学校も学科が分かれていて、一緒に実技授業をすることはほとんどありません。
この2つの法律には、それぞれ「できること」と「できないこと」がはっきり書かれています。中でも一番はっきり分かれているのが、カミソリを使った顔剃り・髭剃りです。
理容師はOK、美容師はNG。これは厚生労働省が公開している資料でもはっきり示されています。
そもそも理容師と美容師、法律上の定義が違う

なぜこんな違いがあるのかというと、法律の中で「理容」と「美容」の意味そのものが違うからです。
難しく聞こえるかもしれませんが、かんたんに言うとこういうことです。
理容師法では、理容とは「髪を切ったり顔を剃ったりして、容姿を整えること」と決められています。
一方の美容師法では、美容とは「パーマやセット、化粧などで、容姿を美しくすること」と決められています。
つまり理容師は「整える」係、美容師は「美しくする」係というイメージです。この目的の違いが、そのままできることの違いにつながっています。
できること・できないことを表にすると
厚生労働省の資料をもとに、それぞれの業務範囲を簡単にまとめるとこうなります。
理容師 | 美容師 | |
|---|---|---|
パーマ | ○ | ○ |
カット | ○ | ○ |
顔剃り | ○ | △(化粧の一部として、軽い程度の顔剃りのみ可) |
ヘアセット | × | ○ |
メイク | × | ○ |
パーマやカットは、どちらの資格でもできます。
でも顔剃りはほぼ理容師だけ。逆にヘアセットやメイクは美容師だけです。
現場で働いていても、美容師がカミソリに触れるのは「レザーカット」とよばれるカミソリを使ったカット技法の時ぐらい。

ちなみに、眉毛カットのときにちょっと産毛を剃るくらいなら問題ありません。
美容師の顔剃りが認められる範囲は、1948年(昭和23年)に出された厚生省(当時)の通達がもとになっていて、もともと襟足・額・眉毛・もみあげなどの毛の処理を想定して「化粧に付随した軽い程度の顔そりなら、美容師が行ってもさしつかえない」とされているからです。
眉を整える延長で軽く剃るぶんには、この範囲に収まります。
参照元:
理美容ニュース
実はカットも「男性はダメ」と言われていた時代があった
ここまで読むと「じゃあカットは昔から自由にできたんだ」と思うかもしれませんが、実はそうでもありません。
1978年(昭和53年)、当時の厚生省はある通知を出しました。この通知では、お客様の性別によってできる施術が細かく分けられていました。かんたんに言うと、
・理容師は、女性に対してパーマをかけてはいけない
・美容師は、男性に対してカットだけをしてはいけない(パーマなど他の施術とセットならOK)
という、今考えるとかなり不思議なルールです。
このルールが世間で話題になったのが2015年(平成27年)3月です。
当時の安倍晋三首相が渋谷の美容室に通っていることが新聞で報じられました。「首相が美容室でカットしてもらうのは、法律違反の疑いがある」と厚労省の担当者がコメントしたことで、ちょっとした騒動になったんです。
参照元:
弁護士ドットコムニュース
この件がきっかけかどうかはわかりませんが、同じ2015年7月、厚労省はこの性別による制限をなくしました。今は性別に関係なく、理容師はパーマ、美容師はカットを問題なく行えます。
つまり「カットができるかどうか」の男女差は、わりと最近になってなくなったルールです。
一方で「顔剃りができるかどうか」という理容師と美容師の違いだけは、今もそのまま残っています。
なぜ顔剃りだけはずっと分かれたままなのか
はっきりした理由は書かれていません。ですが、理容師はもともと「男性のお客様の顔まわりを整える」仕事を中心に発展してきた歴史があります。
顔剃りや髭剃りは、その代表的な技術のひとつでした。
一方の美容師は「容姿を美しくする」という、女性向けのおしゃれに近い分野からスタートしています。カミソリを使った顔剃りは、もともと美容師の技術には入っていなかったんです。
こうした始まりの違いが、今の制度にもそのまま残っているようです。
そもそも美容学校でも美容科の生徒はヒゲソリの授業などもありません。
「やらない」のが前提の免許取得になっているのです。
実は理容室の顔剃り、女性にも人気が出ている

最近は、理容室に女性向けの顔剃りメニューを用意しているお店も増えています。
産毛と一緒に古い角質も落とせるので、肌が明るくなったりメイクのノリが良くなったりします。
この効果を求めて、結婚式やイベントの前に「顔剃りだけ」利用する女性も増えているようです。
以前勤めていた美容室では、理容師免許をもつスタッフが女性向けのシェービングサービスを行っていました。
とはいえ男性のようにヒゲを剃るのではなく、デコルテや背中のあたりなどの産毛をキレイにするメニュー。
結婚式でウエディングドレスなどを切る時に目立たないようにするというちょっと珍しいメニューです。
女性の人は男性スタッフに背中の毛を剃られるのは当然嫌がるので、理容師免許を持つ女性スタッフというのはとても需要があったのです。
ただし、美容師が行っていいのは、あくまで化粧に付いてくる軽い程度の顔剃りまでです。
実際に2018年、「美容室で本格的なシェービングサロンのようなサービスを行うのは、美容ではなく理容にあたる」という国の回答も出ています。
参照元:
経済産業省
両方の免許を持つ美容師もいる
ちなみに、美容師免許と理容師免許を両方取得している「ダブルライセンス」の方もいます。
この場合、理容室・美容室どちらでも働けます。顔剃りを含めたシェービングメニューも提供できるようになります。結婚式の現場などでは、着付けからヘアメイク、シェービングまで一人で対応できるので、喜ばれることも多いようです。
知っている美容室のオーナーさんは、まず専門学校に通い美容師免許を取得したあと、通信課程で理容師免許を取得した方がいました。
目的はヒゲソリをメニューとして取り入れるため。
かならり珍しいパターンではありますが、気合さえあれば可能です。
まとめ
同じ「髪のプロ」でも、理容師と美容師は法律上まったく別の資格で、できることにもはっきりした違いがあります。
特に顔剃り・髭剃りに関しては、美容室では基本的にお受けできないので、もし気になる方は理容室やシェービング専門店を頼るのがよさそうです。
普段何気なく通っている美容室や理容室にも、こういう法律の積み重ねがあると思うと、髪を切ってもらう時間もちょっと違って見えてくるかもしれません。




