90年代の終わり、カリスマ美容師ブームの火付け役とも言える超有名美容師。
その1人が実は無免許で仕事をしていたとして、世間を騒がせたことがあります。
しかも一人だけの話では済みませんでした。
目次
テレビが生んだ「カリスマ美容師」ブーム

1990年代後半、原宿・神宮前にあった美容室「ACQUA(アクア)」の共同経営者だった野沢道生氏、綾小路竹千代氏、青山正幸氏らが、時代の顔として一気に注目を集めました。
当時テレビでは美容師の特集が頻繁に放送され、影響を受け憧れた一人なのでよく覚えています。
きっかけは、フジテレビ系の深夜番組『シザーズリーグ』です。
1999年4月から放送されたこの番組は、人気美容師同士がカット技術を競い合う内容でした。
ACQUAの3人はこの番組を仕切るような存在になり、メディアの花形として君臨します。
参照元:
imidas
当時は年収数千万円、新規の予約が取れないほどの人気だったと言われています。
美容師という仕事そのものが、中高生の憧れの職業になったのもこの時期です。
「なりたい仕事ランキング」の上位になり、専門学校と社会人になってから綾小路竹千代さんの講習を受けました。夕食会にも参加したことがありますが、強烈に憧れていました。
スクープ、カリスマ美容師が無免許だった

1999年9月、週刊誌がある事実をスクープします。
番組で人気を集めていた青山正幸氏が、実は美容師免許を持っていなかったというものでした。
騒ぎはこれだけで終わりませんでした。
同じ1999年10月には、シザーズリーグの常連だった別のサロン「MINX」の美容師2人も無免許だったと週刊誌で続報が出ます。
参照元:
国立情報学研究所(週刊朝日 1999年10月1日号)
一人が発覚したことをきっかけに、次々と同じような話が出てきたことになります。
厚生省が全国に立ち入り検査を指示
この騒動は、業界全体を巻き込む事態に発展しました。
厚生省(当時)は1999年9月28日付で、全国の美容所に対して立ち入り検査を行うことなどを求める通達を出しました。
無免許者によって施術が行われていないか、予約簿などの帳簿で確認するようにという内容です。
参照元:
厚生労働省(当時:厚生省)
テレビの中だけの話だったカリスマ美容師ブームが、全国の美容室の現場にまで影響を及ぼしたわけです。
医者で言うなら「医師免許を持っていない人が手術していた」わけですからそれは大問題です。
ブームの舞台だった番組も、まもなく姿を消すことに
無免許発覚のあと、『シザーズリーグ』はすぐには終わりませんでした。
1999年11月、番組は『シザーズリーグ2001』という形にリニューアルされます。
ただ、そこから番組が続いたのは長くはありませんでした。
2000年3月には、番組そのものが終了しています。
放送開始からおよそ1年というスピードでした。
無免許問題がすべての原因と言い切ることはできませんが、番組を巡る評価が大きく割れる中で、ブームを支えていた土台が崩れていったことは間違いなさそうです。
これだけ大きな社会現象になっていたブームが、無免許発覚から1年足らずで一区切りを迎えたことになります。
華やかだった分だけ、その終わり方は少し寂しいものだったのかもしれません。
なぜ美容師には国家資格が必須なのか

そもそも美容師は、国家資格がないと名乗れない仕事です。
パーマやカラー、カットといった施術は、美容師免許を持っている人しか行ってはいけないと法律で決まっています。
これは美容師法という法律で定められていて、免許なしで施術をすること自体が違法になります。
なぜここまで厳しいのかというと、髪や頭皮に薬剤を使う施術には、肌荒れやアレルギー反応など、体に直接関わるリスクがあるからです。
技術力があるかどうかとは別に、安全に施術を行うための知識をきちんと身につけているかを、国が保証する仕組みが必要ということです。
カリスマ美容師たちがどれだけ人気で、どれだけ技術があったとしても、この部分だけは別の話だったということになります。
なぜこのような無免許人気美容師が誕生してしまったか
これは青山氏個人の事情ではなく、当時の美容業界全体に共通していた背景の話です。
肩を持つという意味ではないのですが、当時の美容師業界は今よりずっと忙しい世界でした。
朝は始発で出勤、練習も夜中までは当たり前で、まともな休日もほとんどない。こんなのが当たり前の世界です。
そして当時は「まず勤めてから免許を取る」という通信課程での免許取得者も多くいました。
今みたいに専門学校が当たり前の世の中になったのは割と最近です。
通信課程で取得するには、勉強、通学などが別途必要です。
しかしそんなことをしている時間も当然無く、どんどん仕事だけできるようになってしまい、お客様からは必要とされる。
「美容師業をしている中で後々取得しよう」と思っていたのが裏腹にどんどん人気になってしまい、逆に時間が取れなくなってしまう。
これはあくまで、当時の業界全体に共通していた構造の話です。
もちろん無免許での営業は絶対にダメですが、もし当時のカリスマ美容室で働きながら、美容師免許取得の練習と勉強も同時にしてください、と私に言われたら「絶っっ対に無理!!」と断言できます。
今も「カリスマ美容師」は存在する
ここまで読むと、カリスマ美容師という存在そのものが消えてしまったように思うかもしれません。
ただ、実はそうではありません。
2019年から「KAMI CHARISMA(カミカリスマ)」というアワードが始まっていて、優れた技術を持つ美容師やサロンが、今も毎年選ばれ続けています。
カット技術やヘアカラー技術などの部門ごとに、一つ星から三つ星までのランクで評価される仕組みです。
覆面調査という形で、実際に一般客と同じようにサロンを訪れて審査するのが特徴です。
このアワードの運営側は、90年代から2000年代にかけての人気先行のブームとは一線を画し、実力そのものを評価する場を目指す、という考え方を明言しています。
かつてのブームは無免許問題をきっかけに終わりを迎えましたが、「カリスマ美容師」という言葉自体は形を変えて今も生き続けているということになります。
覆面での審査だと、まるでミシュランと一緒ですね。
事前告知がないからこそ、お客様への本当の姿、日々の対応が審査されるという仕組みです。
資格の重み
あれから20年以上経ちますが、当時の騒動は美容業界の中では今も語り継がれる出来事の一つです。
これから美容師を目指す人にとっても、この話には意味があると思います。
人気や技術は大事ですが、それはあくまで免許という土台があってこその話です。
華やかな世界の裏に、こういう出来事があったということも、知っておいて損はないはずです。




